04844-170801 金沢大学ロースクール「民法1」期末試験の参考解答例
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金沢大学法科大学院(ロースクール)にて4月から15週にわたって毎週火曜日3・4限に実施してきた「民法1」。その期末試験(回答時間90分)を8月1日に実施し、そのあと講評いたしました。配布した採点基準と参考解答例を以下に転載いたします。
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【採点基準】
1. はじめに
⑴ 「法的三段論法」を実践できるかどうかが、採点基準として最大の焦点です。そのため、「条文の読み方・扱い方」、「要件の分解」、「要件事実の抽出」、「法適用」といった一連のプロセスをきちんと文章で表現できているかが評価の対象となります。
⑵ まず最初に問題提起ができるかどうか。そして必要とされる条文を抽出し、要件に分解して読み、事実から法律要件該当事実を抜き出し、要件に代入し、結論を導くという、授業で扱った各条文で繰り返し訓練した一連の手法を用いて論述できるか。その各段階を採点の対象とします。
⑶ いつも申し上げているように、日頃から「暗記でなく起案」を実践している人には難しくない問題です。当事者の視点に立って、条文と事実をそのまま使えば素直に論述できる初歩的な問題です。
⑷ 個々の単語、表現などを的確に使う注意深さも要求されます。
2. 出題の趣旨
⑴ 請負契約において「仕事の目的物に瑕疵がある」場合に、注文者が何をできるのか、条文に沿って論述することが求められます。
⑵ 問題文に「請負契約における請負人の担保責任に注意しながら」との誘導がありますから、634条を見つけるのは容易いと思います。
⑶ その前提として、まずは契約の成立から債務の内容、履行の有無、瑕疵の認定といった事実認定が的確にできることが必要です。そのうえで、条文を要件に分解し、それに沿って請負人の反論を構築し、その反論に答えていく、という緻密な作業を行えるかが問われます。
⑷ 丁寧に条文を引く、という基本が大切です。
⑸ 同様に、丁寧に事実を引く、という基本も重要です。
⑹ 条文に用いられているキーワードを「自分で定義する力」が問われます。「瑕疵」や「相当の期間」といった文言をどのように定義するか。それによってそのあとの論述の質も変わってきます。
⑺ 論述を読む人が、文章を追っていくだけで内容を理解できるような「思考の順序に準拠した論述」が大切です。
3. 具体的な採点の基準
具体的な採点の基準は下記の通りです。ただし、各論述にあたっては、論理が通っていれば、結論の肯否は問題ではありません。
⑴ 冒頭で請求の根拠として2種類があることに言及しましょう。
⑵ 請負契約という契約上の問題ですから、最初に契約の成立と債務の発生に言及し、債務の内容を認定しましょう。
⑶ その債務に対して請負人が行なった行為が履行に当たるか否か、認定しましょう。
⑷ 634条1項に基づき、Cの反論を3通り、挙げましょう。
⑸ 「瑕疵」を定義しましょう。
⑹ その定義に基づいて、債務の履行はしているが瑕疵がある、という事実関係を抽出しましょう。
⑺ Cの第1反論について評価しましょう。
⑻ 「相当の期間」を定義しましょう。
⑼ その定義に基づいて、「相当の期間を定め」たと言えるか、事実関係を抽出しましょう。
⑽ Cの第2反論について評価しましょう。
⑾ 「瑕疵が重要でない場合」を定義しましょう。
⑿ その定義に基づいて、「 瑕疵が重要でない場合」に該当するか、事実関係を抽出しましょう。
⒀ Cの第3反論について評価しましょう。
⒁ 担保責任に基づく修補請求が認められるか、結論を出しましょう。
⒂ 634条2項の要件を抽出し、事実に適用しましょう。
⒃ 損害の発生を認定しましょう。
⒄ Cの反論2点を挙げましょう。
⒅ 所有権の存否が損害賠償の請求に与える影響を評価しましょう。
⒆ 売却価格と損害賠償の関係を評価しましょう。
⒇ 外壁の改修工事の不備を理由とする損害賠償の請求が認められるか、結論を述べましょう。
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【参考解答例】
第1 設問1
1. 事実7のAの請求として2つの可能性が考えられる。第1に,仕事を完成する債務の履行請求,第2に,担保責任に基づく修補請求である。
2. 仕事を完成する債務の履行請求
⑴CA間の請負契約の成立により,Cには「B邸の外壁に用いられたものと同じパネルを使用してA邸の外壁を改修工事する」という仕事を完成する債務が発生しているところ,Cの改修工事にはB邸の外壁に用いられたものとは異なるパネルが使用されたことから,債務の内容たる「仕事」が「完成」していないことを理由に,事実7の請求として仕事を完成する債務の履行を請求(民法(以下,略。)632条)することが考えられる。
⑵しかしCは,B邸の外壁に用いられているパネルがE社製造の商品名「キャビン」であることをB邸を建築したD社に確認したうえ,E社製の「キャビン」を用いてA邸の外壁改修工事を行なっている。これは「B邸の外壁に用いられたものと同じパネルを使用してA邸の外壁を改修工事する」という仕事を完成する債務の履行に該当するから,Cの債務は履行が完了しており,Aによる履行の請求は認められない。
3. 担保責任に基づく修補請求
⑴次にAは,請負契約に基づく「瑕疵の修補」の請求(634条1項本文)として事実7の請求をすることが考えられる。
⑵これに対して,Cが,そのようなAの請求は認められないとの反論をする理由として3通りの可能性がある。すなわち(a)「仕事の目的物に瑕疵があ」る(634条1項本文)とはいえない,(b)「瑕疵があ」るとしても「相当の期間を定め」た(同条項本文)とはいえない,そして(c)「瑕疵があ」り「相当の期間を定め」たとしても,「瑕疵が重要でない場合」に該当し,かつ「その修補に過分の費用を要する」(同条項ただし書),である。以下,順に検討する。
⑶ (a)の反論について
ア 「瑕疵」とは,契約締結時に当事者が合意した性状を欠いていることをいう。
イ 本件外壁改修工事では,B邸の外壁に用いられたものと同じE社製のパネル「キャビン」が使用されており、耐火性,防水性等の性能がB邸と同一である点においては,当該目的物が通常備えるべき品質・性能を欠いているとはいえない。
本件でAは,打ち合わせ時にCにB邸を実際に見せて,A邸の外壁を「B邸と同じ仕様」にしてほしい旨を伝え,CもAの希望に沿った改修工事が可能である旨を伝えたうえで請負契約を締結している。この時点でAはB邸の外壁がE社製のパネル「キャビン」であるとは知らず,B邸の外観のみから「B邸と同じ仕様」にしてほしいと依頼していることから,「B邸と同じ仕様」とは「外壁にキャビンを使うこと」や「耐火性,防水性等の性能がB邸と同一であること」ではなく,「B邸の外壁に用いられたものと同じ外観のパネルを使うこと」を意味すると解される。
改修を終えたA邸の外壁は,表面の手触りや光沢が若干異なり,色も少し違って見えることから,「B邸の外壁に用いられたものと同じ外観」とはいえず,契約締結時にC及びAが合意した性状を欠いている。
ウ 以上より,本件改修工事によって完成した「仕事の目的物」たるA邸の外壁には「瑕疵」があるため,Cによる(a)の反論は認められない。
⑷(b)の反論について
ア 「相当の期間」は,請負契約の内容・性質と瑕疵の態様から想定される修補に要すべき十分な期間を事案ごとに決する。
イ Aが求める「瑕疵の修補」には,B邸と完全に同じ特注品のパネルを発注し製作してもらう時間,及び瑕疵のあるパネルを剥がし特注品のパネルを張る時間が必要である。当初のCA間の請負契約では外壁を剥がして張る改修工事に1か月の期間が設定されていたことから,特注品のパネルの製作に2週間かかることを勘案すると,瑕疵の修補には最短で約1か月、最長で約1か月半を要すると想定される。AはCに対し3か月以内に瑕疵修補工事を完成するように請求しており,これは想定される期間の2〜3倍の長さに設定されており,十分な期間が設定されたと評価できる。よって,Aは「相当な期間を定め」たといえる。
ウ したがって,Cによる(b)の反論も認められない。
⑸(c)の反論について
「瑕疵が重要でない場合」とは,注文者が請負契約を締結する際に重要視していた以外の点のみに瑕疵がある場合である。
本件改修工事において,AがA邸の外観をB邸と同じ仕様にすることを重要視していたことは上述の通りである。Aが請負契約締結前にB邸をCに見せたこと,及び工事開始前に現場に置かれていたパネルを見てその色がB邸と若干違うと感じるとCに伝えたことから,特に外壁の色を重要視していたと認められる。
よって,A邸の外観がB邸と異なる色に仕上がっているという瑕疵は,本件請負契約の注文者Aが重要視していた点にあるため、「瑕疵が重要でない場合」には該当しない。
したがって,Cによる(c)の反論も認められない。
⑹以上より,Cの上記(a)ないし(c)の反論は認められず,AはCに対して,634条1項本文に基づき事実7の請求をすることができる。
第2 設問2
1. 請負契約の注文者は,瑕疵の修補に代えて,損害賠償の請求をすることができる(634条2項前段)。本件請負契約の注文者であるAはA邸をFに売却した後でも,Cに対し外壁の改修工事の不備を理由に,その瑕疵の修補に代えて,瑕疵の修補に要する金額を損害額とした損害賠償の請求をすることができるはずである。
2. Cの反論
⑴AがA邸の所有権(206条)を有していないとの反論
ア これに対してCは,A邸は既にFに売却済みでありAはA邸の所有権を有していないため,AにはA邸の改修工事の不備に関して損害の賠償を請求する権利がないと主張することが考えられる。
イ AのCに対する損害賠償の請求は,A邸の所有権に基づいてなされているのではなく,CA間の本件請負契約における「注文者」としてなされたものである。634条2項を根拠に損害賠償を請求する際に,AがA邸の所有権を有していることは要件ではない。よって,AはA邸を売却した後も請負契約の注文者としての地位を失わず,Cに対し損害の賠償を請求することができる。
ウ したがって,Cの反論は妥当でない。
⑵A邸の売却価格に瑕疵が影響しなかったとの反論
ア Cは,A邸の外壁に現在張られているタイルは性能上問題がなく,B邸と異なるパネルが用いられていることはA邸の売却価格には全く影響しなかったことから,Aには瑕疵に基づく損害が生じていないことを理由に,Aの損害賠償の請求は認められないと主張することが考えられる。
イ 634条1項の要件を充足した結果,注文者は,瑕疵修補請求権を取得する。注文者はこの権利に基づき,瑕疵の修補を請求するか(634条1項本文),又は瑕疵の修補に要する金額を損害とし,この賠償を請求することができる(634条2項前段)。
ウ 本件では,「仕事の目的物に瑕疵があ」りその他の要件も充足しているため,Aには瑕疵修補請求権が発生している。そして,当初Aは,Cに対し瑕疵の修補を請求していたが,Cが請求に応じないため,634条2項に基づき損害賠償の請求をしている。
エ したがって,Aは,すでに発生している瑕疵修補請求権に基づいて,Cに対し瑕疵修補に要する金額を損害額とした損害賠償の請求をしているのであるから,Cの反論は妥当でない。
3 以上より,Cの反論はいずれも認められないため,AはCに対し,外壁の改修工事の不備を理由とする損害賠償の請求をすることができる(634条2項)。
以上
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